第8回 東京都千代田区「ちよっピー」 ―先駆者の模索(月刊『広報』連載コラム 「人をつなぐ」地域SNS ~各地の地域SNS活用術)
地域SNSの先駆者
今回は、東京都千代田区の「ちよっピー」(http://www.sns.mm-chiyoda.jp/)を紹介する。「ちよっピー」は、2004年に熊本県八代市で誕生した地域SNS「ごろっとやっちろ」に総務省が着目して2005年度に実施した実証実験で開設された。いわば地域SNSの先駆者のひとつである。このSNSの、実証実験後の展開を中心に紹介しながら、地域SNS活用のポイントを考えてみたい。
千代田区は23区のほぼ中心に位置し、皇居を取り囲む11.64平方キロメートルの狭い地域である。永田町や霞ヶ関には国会や中央省庁など国の首都機能が集中し、また丸の内や大手町には大企業の本社が集まる日本経済の中心でもある。また、秋葉原の電機店やアニメ・ゲーム産業の集積、神田神保町の書店や出版社の集積、番町の高級住宅街など、特色を持った地域によって構成されている。昼間の人口は85万人以上だが、夜間人口(区の人口)は約4万人で、その差が非常に大きい地域である。
「ちよっピー」は、「財団法人まちみらい千代田」が運営している。この団体は平成17年に、財団法人千代田区街づくり推進公社や財団法人ちよだ中小企業センターなどを統合して生まれた。地域の土地や建物を管理運営しながら産業育成や地域の活性化を主導する現代版「家守」の育成など、まちづくりや産業振興に取り組んでいる。
実証実験の成果
「ちよっピー」の実証実験は、地域SNSが行政への住民参画や災害情報の共有などに使えるかというテーマで、2005年12月から翌年2月の2ヶ月間に渡って行われた。「ちよっピー」という名称は、「千代田」と「People(人々)」を合成したもので、ユーザーからの公募で決められた。実験期間の終了までに903人がユーザー登録し、125個のコミュニティが設置された。また日記や日記へのコメントが1日平均17.5件、コミュニティへの書き込みが平均43.3件あり、比較的活発に利用されたといえる。
例えば「交通機関の運行状況速報」コミュニティでは、電車の遅延や運休についての情報が、ユーザーからの自発的な情報提供によって共有された。電車の運行情報は、この地域で生活している人々にとっては一刻も早く知りたい情報だが、テレビや新聞等にその情報が載るまでには時間がかかる。したがってこれは、ネットコミュニティでの情報共有が他のメディアに対して優位性を発揮できる使い方だといえよう。また「千代田区こども110番」コミュニティでは「千代田区こども110番連絡会」が、通学路の安全性などについて情報を交換しただけでなく、実際に区内で刃物を持った男が突然で人を刺傷し逃走するという事件があった際には、速報の提供、情報共有の場として機能した。さらに、この経験を契機として区担当者やPTAらによるオフラインの会議が実施された。
千代田区は観光スポットや飲食店、事件などがマスメディアに露出する機会が多い。それでも、実際にそこで生活をしている人々には、交通情報や子供に関する情報など生活に密着した情報をいち早く知りたいというニーズが強く存在し、その伝達共有手段としてSNSが活用できる可能性が示されたといえる。
実験後の課題は「人のつながり」
実証実験が終了した後も、ちよっピーは「まちみらい千代田」の事業として運営されている。登録者も2,336人にまで増加し、参加者の数でいえば今でも全国有数の規模を誇る地域SNSである。
だが現在、残念なことにちよっピーでは、以前ほど活発にはコミュニケーションが行われなくなってしまっている。ユーザーの関心が、メディアで頻繁に取り上げられた頃よりも低下するのは仕方のないことだが、ここでは「人のつながり」の観点から考えてみたい。
SNSでは、「ともだち」同士で互いの近況を把握したりそれを元にコミュニケーションをしたりすることができる。そして、「ともだち」が多いほど、SNSにアクセスした際に更新される情報が増えるので、ユーザーは「ともだち」のネットワークを拡大し、またそれによってSNSに滞在する時間を増やし、アクセス頻度を高めるようになっている。つまり、「ともだち」の数とは、SNSというサービスにとって、その性質を十分に生かせるかどうかを決める重要な要素だ。しかし、運営者によると、ちよっピーでは「ともだち」の数が0人で誰ともつながっていないユーザーが1726人と半数以上を占めている。
これには、(1)新規ユーザーが誰かの招待を受けなくても利用できる登録制であるということ、(2)地域SNSの代表例として広く知られているため、試しに地域SNSを使ってみたいという「様子見」のユーザーが多いこと、(3)運営者やコアユーザーが積極的に人を結びつけるような活動をしていないこと、などが原因として考えられる。
特に(3)については「地域SNS活用術」として重要なポイントだ。本連載ではこれまで、各地の地域SNSが、活発にオフ会を開催したり、SNS内のさまざまな活動を紹介するメディア(ウェブマガジン、フリーペーパー等)を活用したりしている例を紹介してきた。このような取り組みは、ユーザーに別のユーザーの存在を知らせたり、出会いの機会を与えたりするため「つながり」の形成に役立つ。また、「ひょこむ(兵庫県)」や「Sicon(福島県会津地域)」などのように、SNS上で第三者がユーザー同士に友達になるよう仲介する「橋渡し」行為が積極的に行われている例もある。このような、つながっていなかった人同士を結びつけるという取り組みは、地域の人間関係を緊密化し、コミュニケーションの濃度を上げることに役立つだろう。
資産を生かしさらなる発展を
もちろん、実証実験の後にも、ちよっピーを活用している人々がいる。町会青年部や合唱サークルのグループや、ブログを書いている人などだ。そのような人々は、地域への思いを持ったユーザーや、その予備軍ともいえる人々であり、ちよっピーにとっては大きな資産だ。また、地域SNSの運営を通じて姉妹都市のような関係を築いてきた新潟県長岡市の「おここなごーか」や京都府宇治市の「お茶っ人」の人々と花見や祭りなどのイベントを通じて交流を深めたり、千代田区の「亀吉」という居酒屋が全国の地域SNSの運営者や研究者が不定期に集まる拠点になっていたりもする。
このように、ちよっピーには、貴重な資産が今も息づいている。ちよっピーを代表するユーザーの一人であり千代田区職員の印出井一美氏は、「今後も、地域の魅力を発掘し、参加型の仕組みをさらに模索していきたい」という。ちよっピーの次の展開が注目される。