第2回 続々と立ち上がる地域SNSと、そこに集う人々(月刊『広報』連載コラム 「人をつなぐ」地域SNS ~各地の地域SNS活用術)

※このコンテンツは、(財)日本広報協会が発行している月刊『広報』に2008年1月号より地域SNS研究会の庄司昌彦が連載している記事を、日本広報協会のご好意により許可をいただき地域SNS研究会のサイトでも公開するものです。
地域SNSの現状を概観する
前回は、地域SNSについての議論を始めるにあたり、そもそも地域社会は何を必要としているのか、ということを考えた。今後の地域社会は、国からの資源配分などに依存することなく自らの力で生きていかなくてはならず、そのためには行政とともに地域を経営するさまざまな中間組織を生み出し、それらの活動や連携を機能させることが求められる。「中間組織を生み出し機能させる」ということは、人と人のつながりを作り出し、人々の間に「信頼」や「互酬性規範」や「市民参加のネットワーク」といったソーシャルキャピタル(社会関係資本)を醸成すること、と言い換えることもできる。そして地域SNSには、その基盤となる可能性がある。
この連載では、各地の地域SNS事例を紹介し、効果的な運営方法などを探っていくことにしている。だが個別の議論に入る前に、今回は、地域SNSが全国に広がった経緯と、どのような人々が地域SNSを利用し、またそこに集っているのかということを概観しておきたい。
誕生と伝播
SNSを地域で活用するというアイディアは2004年12月、熊本県八代市の「ごろっとやっちろ」というサイトから始まった。八代市では市の広報情報をより多くの人に届けるために、公式サイトとは別に、市民が普段から「居場所」にするネットコミュニティとしてSNSを設けた。その結果、アクティブユーザーが増加し、活発なコミュニケーションが行われるようになった。
図1:ごろっとやっちろ(熊本県八代市)
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そして総務省はこの八代市の成功に注目し、2005 年12月から2006年2月まで、新潟県長岡市と東京都千代田区で地域SNSの実証実験を行った。この実験はSNSが行政への住民参画や防災情報の共有などに使えるか、ということがテーマであった。「ICTを用いた行政への住民参画」というテーマはそれほど新しいものではなく、1990年代後半から電子掲示板(BBS)を活用する地方自治体が登場し、2002 年には全国で733 自治体を数えた。だがほとんどの事例が、議論が盛り上がらなかったり、荒らされたりして失敗に終わっていた。そこで、互いのプロフィールを明かすことで匿名性が低く安心できるSNSに期待が寄せられたのである。
この実証実験は、SNSが地域密着の情報を迅速に交換・共有できる安心な場であるということを示した。また同時に、この実験の報道などを通じて「地域SNS」というアイディアが全国的に認知され、他の自治体や企業やNPOなどの想像力を刺激した。
そしてこのころから、地域の人的ネットワークをSNSで構築し、地域情報の生成・流通・蓄積や、まちづくり、商業振興、観光振興などに活かそうという取り組みが全国に広がっていった。「OpenPNE」というオープンソースのSNSプログラムもタイミングよく登場し、2005年末から地域SNSは増加し始め、2007年末時点では全国で300カ所以上存在すると推測される。
目的と運営主体
地域SNSを運営しているのは、地方自治体や各地の企業、メディア、NPO、個人、任意団体などで、これらが協働でSNSを立ち上げる事例もある。多いのは民間企業(システム開発、地域ポータル、通信系、新聞・TV等)やNPOで、地方自治体は全体の1割(30自治体)程度だ。地域活性化を掲げる人々が任意団体を結成してSNSを開設した「イマソウ」(愛媛県今治市)や「けいはんな」(けいはんな学研都市)、商工会議所を中心とする有志が開設した「N[エヌ]」(長野県)といった事例もある。
地域SNSの運営主体と、それらが掲げる地域SNSの目的や方向性をおおまかに整理すると図2のようになる。地方自治体が運営しているものは行政や交流・まちづくりをテーマにするものが多く、NPOは交流・まちづくりや地域メディアづくり、企業が運営するものは地域メディアや地域(経済)活性化への意識が強いようだ。
図2:地域SNSの運営主体と目的・方向性
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出典:筆者作成
地域SNSの参加者
次に、地域SNSに参加している人々に焦点を当ててみよう。地域SNSの参加者数の平均は(SNSを作っただけで放置されているものを除くと)300~500人程だ。だが多いところでは数千人規模に達しており、佐賀県の「ひびの」の約8,000人、福岡県の「VARRY」の約6,000人といったところが最大規模である。これは「mixi」最大の地域コミュニティ「I Love Yokohama【横浜】」の約4万9,000人と比べるとひとケタ少なく、電子掲示板(BBS)形式で唯一の成功例ともいわれる神奈川県藤沢市の「市民電子会議室」の約3,000人よりは多い。この数が多いか少ないかは評価が分かれるところだが、実態を踏まえると、現在の地域SNSは対象地域のすべての人が参加するようなものではなく、その地域に関するコミュニケーションやまちづくり活動などに関心のある人々が数百人、数千人規模で参加している、と理解した方がよさそうだ。
また参加者の年齢層に注目すると、「若者ばかりではない」というのが地域SNSの特徴だ。全国規模で流行しているmixiの場合、35歳未満の人々がパソコンで8割、携帯電話からは9割以上を占めているが、地域SNSでは平均年齢が40歳前後というものが少なくない。これは、地域SNSが掲げている地域メディアやまちづくりなどのテーマは40代以上の人々にも関心が高く、またそのようなテーマに意識をもっている人々がさらに仲間を引き込んでいるからであろうと思われる。
またシニア層など、機器の操作に慣れていない人にも参加してもらうために、パソコン講習やサポートを地域SNSの取り組みとセットにしている事例もみられる。これは地域SNSの参加者を増やし、互いに顔が見える関係を築くのに役立っている。
次回からは具体的な事例を取り上げ詳しく紹介しながら、地域SNSに共通する特徴や効果的な運営方法を探っていく。
※地域SNSの運営者、利用者、研究者などが集まる、「第2回地域SNS全国フォーラム」が2月28日・29日横浜で開催される。8月に行われた第1回のフォーラムは主催者の予想を大幅に上回る数の参加者が全国から集まり、大変なにぎわいであった。「地域で人をつなぐ」ことによる活性化に関心のある方にはぜひおいでいただきたい。