第1回 地域SNSに何ができるか(月刊『広報』連載コラム 「人をつなぐ」地域SNS ~各地の地域SNS活用術)

※このコンテンツは、(財)日本広報協会が発行している月刊『広報』に2008年1月号より地域SNS研究会の庄司昌彦が連載している記事を、日本広報協会のご好意により許可をいただき地域SNS研究会のサイトでも公開するものです。
「人をつなぐ」地域SNS
“SNS”が世界的に広がっている。SNS(Social Networking Service)とは、インターネット上で友人関係を可視化しコミュニケーションを楽しむ会員制のコミュニティサイトだ。国内では大手の「mixi」が1200万人以上の会員数を誇り、また海外でも1億人以上の会員を抱える「Myspace」をはじめ数千万人規模のサイトがいくつも存在するなど、急速に成長している。インターネットでコンピュータや情報をつなぐのではなく「人をつなぐ」ということ、そしてつながった人々のコミュニケーションや活動をさまざまな形で支援するということがSNSの特徴だ。
国内では2005年頃から、SNSを「地域」の活性化や交流に活用しようという取り組みが増えており、総務省もこれを後押ししている。2007年5月現在で250ヶ所以上の地域SNSが全国各地に設けられ、すぐれた成果も各地でみられるようになってきた。2007年の8月に兵庫で行われた「地域SNS全国フォーラム」では、主催者の想定を大幅に上回る数の人々が産官学民のさまざまな立場から集まり、大変な盛り上がりの中で地域SNSの可能性について議論し交流を深めた。同時多発的に全国で起こった地域SNSの取り組みは、大きなうねりとなりつつある。
図:地域SNS全国フォーラムの様子
zentaikai.jpg
しかし、地域SNSに参加しているのはどの地域でも数百人から数千人ほどで、インターネット上のサービスとしてはどれもそれほど大きなものではない。そのため実情が十分に紹介されているとはいえない。また、地域SNSが支える「人のつながり」はどうすれば地域の課題解決や活性化へと発展させることができるのか、行政やNPOや民間企業は地域SNSとどう関わればいいのか、どうすれば地域SNSを持続的な地域社会の活動基盤としていけるのか、といったことは各地で試行錯誤が続いている状態で、成功・失敗の経験が広く共有されているとはいえない。
そこでこの連載では、地域SNSの先進的な事例や特徴的な事例を紹介し、共通する特徴や効果的な運営方法をさぐっていきたいと考えている。
地域社会を機能させるもの
地域SNSを語るときに、「ソーシャルキャピタル(社会関係資本)」という用語をたびたび耳にする。「地域で人をつなぐことでソーシャルキャピタルをはぐくむ」とか、「地域SNSはソーシャルキャピタルが豊かなところで活性化する」などといった使われ方をする。地域SNSの活用は、このソーシャルキャピタルがカギになっている。
そこで、地域SNSについての議論を始める前にソーシャルキャピタルという考え方を基に、地域社会は何を必要としているのか、ということを考えてみたい。
ソーシャルキャピタルについてはさまざまな研究があるが、ロバート・パットナムという政治学者が行った「Making Democracy Work(「邦題:哲学する民主主義」、1993年)」という研究が代表的である。彼は、1970年代にイタリアで進んだ地方分権について研究し、地方政府がよく機能した地域は、自発的な市民活動が根付き活発で水平・平等主義的であると考えた。
このときに彼が、「人々の協調行動を活発にし、効率を高める社会的特徴」として位置づけたのがソーシャルキャピタルだ。これは「信頼」、「互酬性規範(互いに与え合う意識)」、「市民参加のネットワーク」などによって構成されていて、ソーシャルキャピタルが充実している地域では、地域経営が効率的に機能しうまくいくという。これらを踏まえて彼は、アメリカ社会でソーシャルキャピタルが低下し地域が衰退しているという指摘を行った。
図:ソーシャルキャピタルの概念イメージ
socialcapital.bmp
出典:「ソーシャル・キャピタル:豊かな人間関係と市民活動の好循環を求めて」
(平成14年度 内閣府委託調査)より
http://www.npo-homepage.go.jp/pdf/report_h14_sc/2.pdf
パットナムのソーシャルキャピタル論は、日本の地域社会を考える際にも参考になる。もともと日本の地域社会には、「結」や「講」やさまざまな中間組織が存在し、「信頼」、「互酬性規範」、「市民参加のネットワーク」の源となっていたと考えられる。だが近代化が進むと社会分業や地方行政が発達し、旧来の仕組みは衰退した。地域社会は自律性が低下し、「政府の指示や知識、中央の資源」に頼って全国どこでも画一的な姿になるような地域経営を行った。その中で町内会や業界団体など、新たな中間組織が整備されたが、近年は既得権化したり機能不全に陥ったりしていて衰退傾向にある。また特に都市部では人々の流動性が高いため、協力関係がなかなか構築されず、危険や不安感が高まっている。
今後の地域社会を考えると、もはや「政府の指示や知識、中央の資源」に頼って生きていくことはもはやできなくなってしまったといえるだろう。少子高齢化が進みグローバルな競争が進む中で中央は地方を支えきれなくなっている。地域社会は政府や中央になるべく頼らず、自ら課題を分析し、目標を定め、自前の知識や資源で問題を解決していく必要がある。
ただ、衰退が進む地域社会にいきなり自立を求めるのは難しい。そのため政府は、地方分権や税源の移譲などを進めているが、パットナムのイタリア研究やソーシャルキャピタルの議論を踏まえると、これからの地域社会に必要なのは「人々の協調行動を活発にし、効率を高める」ことであり、そのための「信頼」や「互酬性規範」や「市民参加のネットワーク」ではないかと思えてくる。行政などとともに地域経営を機能させるための中間組織を生み出し、活性化させ、それらの連携を機能させること(多主体によるネットワーク型のガバナンス)を作り出すことがとても重要なのではないだろうか。
地域SNSができること
 地域SNSは、人と人をつなぎ、さまざまなサークルや団体など新たな中間組織の活動を支援することができる。また、インターネット上でしばしばみられる助け合いの精神も機能させることができる。そして、コミュニケーションを重ねさまざまなイベントを共有することで、ユーザー同士が互いの信頼感を高めるといった効果も持っている。
つまり地域SNSは、ソーシャルキャピタルを醸成することで人々の協調行動を活発にし、地域社会の経営を機能させる基盤となる可能性があると考えられる。
 今回は地域SNSからやや離れた抽象論が多くなってしまったが、次回は地域SNSの全国的な実態を運営目的や運営主体、ビジネスモデル、利用者の属性などさまざまな角度から整理することにしたい。