白浜町サテライトオフィス、成功の理由
総務省は、2015年度より「ふるさとテレワーク」を推進しています。これは、都市部の企業が一部の仕事を地方のサテライトオフィスやテレワークセンターに移転し、地方でも都市部と同じように働ける環境を実現するものです。地方への人や仕事の流れを促進することで、柔軟な働き方の実現や地元産業への刺激など、地方創生・地域振興を達成します。
1.セールスフォース社を誘致して ーワークライフバランスの改善ー
地方創生のため、企業誘致に力を入れる地方自治体も増えてきました。代表的な先行事例が、和歌山県白浜町です。2015年、総務省ふるさとテレワークの採択を受け設立された白浜町ITビジネスオフィスは、米国IT企業の日本法人セールスフォース・ドットコム社のテレワーク拠点として注目されています。このオフィスで働くのは約10名で、オフィス長以外の社員は基本的に3ヶ月で東京本社と入れ替わります。主な業務は、本社同様のインサイドセールスと呼ばれる内勤型営業です。これは電話やEメールで新規顧客のニーズを開拓する手法です。従来の訪問型営業と異なり、商談時間や移動時間を削減し、少人数でもより多くのアポイントメントを取ることができます。
白浜町がセールスフォース社のサテライトオフィスに選ばれた理由には、都心からのアクセスのしやすさや、社員のリフレッシュにもなる美しい自然環境などの条件があげられます。サテライトオフィス長の吉野氏は、オフィス設置にあたりいくつかの候補地から最終的に白浜町を選んだ理由の一つに、羽田空港から南紀白浜空港まで約1時間、1日3便往復運行という交通の利便性をあげています。さらに、白浜町は比較的穏やかな気候で、海水浴場や温泉を有する観光地としても有名です。インターネットやメディア取材では、海が見えるリゾート風オフィスとしてその景観の良さが話題になっています。
サテライトオフィスには、生産性を向上させる効果が期待されています。セールスフォース・ドットコム社によると、その業務内容は東京本社とほぼ同様であるにも関わらず、2015年10月から2016年4月までで商談20%増、契約金額31%増という実績をあげたと発表しました。都心の通勤ラッシュがなく通勤時間を大幅に短縮できるので、ゆとりある時間を子育てや趣味、自己投資に充てることができ、ワーク・ライフ・バランスの改善に繋がります。
表1:セールスフォース社公開の実証結果
(出典)
表2:セールスフォース社、本社とサテライトオフィスでの条件比較
(筆者作成)
また、サテライトオフィスのような職場環境は、ストレス対処にも効果的であることが科学的に証明されています。産業医科大学が2015年に行った調査によると、IT企業において通勤ストレスの軽減、業務の明確化、能力向上のための研修・訓練の機会を設けることなどは、精神的なストレス軽減になるとされています。よって、サテライトオフィスで働くことは、ワーク・ライフ・バランスを整え、ストレス耐性を強化してくれるといえそうです。
昨年2016年には、NECソリューションイノベータのサテライトオフィスが白浜町に移転してきました。NECもまた、総務省による「ふるさとテレワーク推進事業」の採択を受け、社員が白浜町のオフィスに移住または長期滞在し、本社機能の一部業務を遂行するテレワークの効果検証に取り組んでいます。従来の在宅ワークとの大きな違いは、地域との協働やワーク・ライフ・バランスの是正にあります。地域における雇用創出や次世代のIT人材育成に力を入れることで、若者の流出を防ぐ効果も期待できるのです。IT企業の地方進出は、地方におけるIT人材育成に大きく貢献します。セールスフォース社は、楽しみながら学べる子ども向けプログラミング教室を開催し、保護者や教育委員会からも好評を博しています。
2.白浜町の受け入れ支援体制の強化
受け入れ先となる白浜町側でもまた、白浜町総務課の坂本和大主査を中心に、サテライトオフィス誘致に積極的に取り組んできました。オフィスとなる建物を安く提供し、移り住んでくる家族を含めた生活支援に力を入れました。実は2003年に白浜町ITビジネスオフィスが創立した際、2社が入居したものの、地元との接点が無く数年で退居してしまったことがありました。そこで、白浜での生活を楽しめるようにと誘致企業と町の接点を増やす試みを続けています。テレワーカーの家族が地元の生活に溶け込めるよう、生活する上で必要な情報提供や、子どもの地元学校への転入手続きなどもサポートしました。またオフィスでのBBQ大会や地元のお祭りに参加する中で相互交流が生まれ、初めて白浜に来た人でも馴染めるように工夫されています。さらに、テレワーカーや住民、観光客が利用できる、情報提供アプリなども開発されています。
また、白浜町はネットワーク整備にも力を入れて来ました。2015年度には国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)と協定を結び、世界初の耐災害ネットワーク実証実験に取り組みました。ICTを活用した、災害に強い町づくりが進んでいます。
【参考文献】
- セールスフォース・ドットコム「セールスフォース・ドットコム、総務省による地方創生に向けた「ふるさとテレワーク推進のための地域実証事業」に参画 」2015年7月7日
- セールスフォース・ドットコム「人口減少社会とテレワーク 和歌山県白浜町の例に見る「地方創生」のヒント」
- WISDOM「和歌山発、始動した「ふるさとテレワーク」、白浜プロジェクトの成果と課題 」2016年6月29日
- 和歌山経済新聞「南紀白浜に「セールスフォース・ドットコム」 遊休保養所がテレワーク拠点に」2015年7月30日
- 新・公民連携最前線(日経BP)ワークしながらバケーション、和歌山県が普及活動に本腰 2017年3月3日
- 和歌山県「株式会社セールスフォース・ドットコムが白浜町へ進出」
- AGARA(紀伊民報)「IT事業所の地方移転 白浜の成功例定着させよう」2015年12月28日
- My Desk and Team「サテライトオフィス成功の秘訣はOhanaカルチャー。セールスフォース・ドットコム白浜オフィスに学ぶ」2016年11月25日
- 日経ウーマンオンライン「テレワーク移住に挑戦! 地方オフィスで東京本社の仕事 横浜から和歌山へ! 地方移住ルポ(上)/単なる地方転勤ではない。和歌山県白浜町でのテレワーク術」 」2016年3月28日
- 日経ウーマンオンライン「『地方に移り東京の仕事をしてもまったく問題ない!』の秘訣
- 横浜から和歌山へ! 地方移住ルポ(下)/「東京と同じ仕事をしています」生産性向上の秘密は?」2016年3月29日
- 近畿財務局「白浜町ITビジネスオフィス」にIT企業を呼び込め!」
- ふるさとテレワーク ポータルサイト(総務省)「先進事例紹介2:和歌山県白浜町」
- ASCII.jp「生産性、急上昇!これぞ景観美の南紀白浜テレワーク」2016年3月25日
- 川原均「地方創生フェス ワークショップ 第三回『デジタル世代×地方創生』」2016年2月27日
- 国立研究開発法人情報通信研究機構「南紀白浜で世界初の耐災害ネットワーク実証実験を開始」2015年4月23日
- 日刊工業新聞「都心で消耗するなら田舎で働こう。『ふるさとテレワーク』実用化へ」2016年2月20日
- VOICE「特集 世界的IT企業進出!温泉やビーチで有名な白浜にオフィス需要なぜ?」2017年4月5日
- biblion「セールスフォース・ドットコムに学ぶ『「地方で働く」を企業が進める意味』」2016年11月24日
- INNOVA「インサイドセールスとは?これからの新しい営業の形」2016年10月25日