世界中に広がるシェアリング・エコノミー
●サンフランシスコ発グローバル企業
実はシェアリング・エコノミーに関する企業は2000年頃から現れていました。現在も利用されているP2Pカーシェアリング「Zipcar」は、ボストンで2000年に創業されました。
しかし今日の急拡大の発端となったのは2008年から2009年のことです。この頃、アメリカ・カリフォルニア州サンフランシスコでシェアリング・エコノミーに関するスタートアップやプラットフォームが相次いで生まれました。
現在、シェアリングの代表格であり、またすでに巨大企業でもあるライドシェアのUberやホームシェアのAirbnb、引っ越しや掃除などの仕事をシェアする「TaskRabbit」などが創業されたほか、シェアリング・エコノミーに関するプラットフォーム「Shareable」もこのころ立ち上げられました。
これらの企業は、そのビジネスモデルに賛否両論がありながらも、瞬く間に成長していきます。
サンフランシスコ市は2012年、シェアリング・エコノミー・ワーキンググループを設置しました。これは前年に当選したエドウィン・リー市長とサンフランシスコ市議会が設けたもので、市の財政・教育・環境・消防などあらゆる行政部署と、市内のシェアリング企業が協力し、シェアリング・エコノミー推進のために障害となる法的・行政的規制の改正を検討するためのものです。2013年には全米市長会議でシェアリング・エコノミー推進が承認され、アメリカではシェアリング企業の急成長に後押しされる形で、行政もバックアップ体制を整えつつあります。
現在では、アメリカ国内だけで30以上の都市がShareableのSharing City Networkにリストアップされており、グローバルな企業だけでなく、地元の特性を生かしたローカルな取り組みも増えています。
●市を上げて取り組むヨーロッパ
こうした流れの中で、前回・前々回の記事でお伝えしたように、韓国・ソウルが行政全体として初めて「シェアリング・シティ」を宣言し、一国の首都でもある大都市の公共政策としてシェアリング・エコノミーを取り入れました。
アメリカやソウルの例を見て、ヨーロッパでもシェアリングの動きは広がっています。
2009年から持続可能なスマートシティを目指す取り組みを行ってきたオランダ・アムステルダムでは、2013年に設立されたプラットフォームShareNLとアムステルダム経済委員会が、市民のシェアリング・エコノミーに対する調査をもとに市を説得し、2015年2月に「アムステルダム・シェアリングシティ」を宣言しました。ソフト・ハード両面のインフラが整うコンパクトな街であるアムステルダムは、個人同士でのシェアに向いており、投資も呼び込みやすいと経済委員会は述べています。
ShareNLとアムステルダム・シェアリングシティ・プロジェクトが運営しているスマートフォンアプリ「Peerby」では、ハンモックから猫のキャリーバッグまで、様々なものをシェアできます。スマートシティ・プロジェクトの一環として、カーシェアやライドシェアなどももちろん行われています。
2015年に万博を開催したイタリア・ミラノも注目を集めています。万博開催時の交通手段・宿泊施設等の不足が見込まれることから、それを契機にシェアリング・エコノミーを広めようと「Shareexpo」という取り組みが2014年から始まりました。Shareexpoや同様のShareitalyでは、モノやスキルの共有だけではなく、それらの問題点についての講演会なども行われています。
シェアリングの動きは広がり、市民の声も取り入れた「Guidelines for Milan Smart City」が市議会で承認され、その中でシェアリング・エコノミーに向けた取り組みを行うことを発表しました。ミラノはまた、独自のコワーキングのためのマッチングシステムも運用しており、2015年の「Coworking Conference Europe」の開催地ともなりました。Coworking Conference Europeが2010年に初めて開かれたときは、開催地のドイツが最も参加者が多かったそうですが、現在ではスペインやイタリアなどからの参加者も多くなっているそうです。
イタリア最大の経済都市でもあるミラノでは現在、市だけではなく周辺地域も含めた圏域レベルへの拡大にも力を入れています。
韓国と同じく、オランダとイタリア、さらにはドイツ・フランス・スペイン・ベルギーなどでも、UberPOPと呼ばれる配車サービスは政府によって禁じられています。やはり既存のタクシー業者よりも低コストで無認可のタクシーが参入することを警戒しての措置で、オランダではオフィスに家宅捜索も行われました。
しかし、グローバルなシェアリング企業を締め出すばかりではありません。アムステルダムはAirbnbとは個別に協定を締結し、市が宿泊税を徴収し、そのなかから寄付も行えるよう制度を整えて対応しました。
また、アムステルダムやミラノをはじめとするヨーロッパの主要都市のネットワークである「EUROCITIES」などを通して、自治体間の連携も行っています。2016年の年次総会はシェアリング・シティをテーマに、ミラノで行われる予定です。
グローバル企業主導のアメリカ型、行政主導の全市的取り組みであるヨーロッパ型、それぞれの強みを生かしながら、それぞれのシェアリング・エコノミーがつくられています。
●参考URL
・Amsterdam Sharing City – Why How What
・Amsterdam Smart City
・OPPORTUNITIES AND CHALLENGES FOR EUROPEAN CITIES: ‘AMSTERDAM SHARING CITY’(ShareNL、2015年10月13日)
・Milan, an Italian smart city for Expo2015(LobGov、2014年12月12日)
・Sharexpo: Milan as a collaborative and shareable city(LobGov、2014年10月27日)
・米配車ウーバー、伊で「POP」に停止命令(NNA.EU、2015年5月28日)