そのまちに住まずに住民になる「ふるさと住民票」

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住民と自治体の関わり方は多様化しています。
一つの自治体に住民登録をし、その自治体に納税し公共サービスを受けるという一方向の関係だけでは、自治体と住民双方に十分な利益がもたらされないことも増えています。
例えば、子供たちのために郊外や地方の自治体は教育・子育て支援に投資しますが、子供たちは大人になると都市で働きそこで納税すると出身地には還元されません。介護や進学などで複数の地域を行き来しながら暮らす人もいます。また、大規模な災害で住民のほとんどが避難を余儀なくされた地域は、住民との関係が絶えてしまうとそのまま消滅する可能性すらあります。

こうした移動が前提となる社会に対して、2015年8月20日、民間政策シンクタンク「構想日本」が「ふるさと住民票」を提言しました。
民間有識者のほか、北海道ニセコ町や福島県飯舘村、鳥取県日野町など8市町村の首長も共同呼びかけ人となっています。
これは、政府が「地方版アベノミクス」として2014年から進めている地方創生政策における「地方への新しい人の流れをつくる」政策を背景としており、都市と農山漁村交流や「二地域居住」などの推進を念頭においたものでもあります。

住民票は納税や選挙権の根拠ともなっているので、もし「ふるさと住民票」を取得したとしてもそこでも選挙権が得られるといったものではありません。提言では基本的には法律改正などは求めず、内容については各自治体が独自に考案するものとされています。

2月22日には、鳥取県日野町で全国初の「ふるさと住民票交付式」が行われました。日野町は「ふるさと住民票」登録対象者を同町の出身者などに限定し、登録者には「ふるさと住民票カード」の交付、町広報紙の送付、町の公共施設の住民料金での利用、町の計画やパブリックコメントへの参加、町の行事の案内、などのサービスを提供するとしています。
交付式では3名の同町出身者に「ふるさと住民票カード」が手渡されました。

また、東日本大震災とのその後の福島第一原発事故で町の全域が避難地域となった飯館村では、関東・東北などの町民の避難先の市町村でも行政サービスを受けることができるようにするための方法を検討しています。

そのほかにも、群馬県太田市、下仁田町、香川県三木町などが、実施に向けた具体的な検討をしています。

■参考URL
「≪記者発表のお知らせ≫ 「ふるさと住民票」の提案 ※記者発表概要追加」(構想日本、2015年9月18日)
「地元出身者に「ふるさと住民票」 民間が創設提言 複数地域居住促す」(日本経済新聞、2015年8月20日)
「住んでなくてもまちづくり参加 歓迎「ふるさと住民票」」(朝日新聞、2016年2月24日)