日本における新興地域SNSの登場と既存の地域SNSとの違い

Photo credit: Foter.com

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前回の記事では、2011年に登場したアメリカの地域SNS「Nextdoor」についてご紹介しました。今回の記事では、日本において2013年以降に登場した比較的新しい地域SNSの事例をいくつか紹介した上で、流行の要因についても紹介します。

◆マチマチ

「マチマチ」は2016年6月に全国展開された「スマホでご近所掲示板」を謳う地域SNSです。実名登録が必須で、設立当初は住所が確認できる免許証や保険証の確認が求められていたようですが、現在はそれに代わりSMSで本人確認が必要となっています。マチマチは想定される使い方として、近隣住民だけが知っているお店について口コミを書き込んだり、近所で子どもと入れるお店や遊ぶ場所を聞いてみたり、病院の評判を尋ねてみたりすることなどを公式サイトに記載しています。当初は徒歩圏内となる半径800m以内をコミュニティの範囲としていましたが、現在はユーザーが自身で参加範囲を町単位で自由に選択できるように変更されたとのことです。2017年5月にTechCrunchが報じたところによると、アクティブユーザーの伸び率は月次で20~30%で首都圏や都市部での利用が多くなっているそうです。

The Bridgeによると、運営会社は当初ファミリー層の利用を想定していましたが、独身層の登録も多くありました。自宅付近を探索する機会が少なく、自宅付近に知り合いがいないため、知り合いがほしいというニーズがあるものとみられています。人々が地方を離れて都市化が進むことで「近くに家族や親族、知り合いなど頼れる人がいない」という悩みを抱えている人たちが増えており、マチマチが近所のつながりを再び作り出すことが期待されています。

また、「マチマチ地域活動支援プログラム」として、地域活動をしている団体、組織に対して、マチマチの運営会社が活動資金の拠出を行ったり、情報発信、テクノロジー活用、組織運営のアドバイスをおこなっています。

2016年11月には、長野県白馬村のまちづくり会社白馬ギャロップから、白馬村の住民情報共有ツールとして採用されています。CNET JAPANが掲載したプレスリリースによると、「これまで地元住民向けの情報発信がなく、村内でバラバラに発信されていた情報を一つに集約したいという要望」を満たすことができると考えから採用されたとのことです。

また、つい最近となる2017年6月15日には、渋谷区と「マチマチ for 自治体」に関する協定を締結しました。この協定では、マチマチを活用して、区と住民、住民同士のつながりを構築・強化することで地域コミュニティの活性化を目指すのが目的です。具体的に行う協働には、

  1. 情報発信の最適化・効率化の支援
    1. 区の情報発信の効率化
    2. 街の掲示板のチラシなど紙の情報のデジタル化
  2. 住民参加の促進の支援
    1. アンケートの実施
  3. 防犯・防災の強化の支援
    1. 防犯・防災情報、不審者情報の発信
    2. 区民同紙による防災情報の発信、注意喚起
    3. 緊急警報機能による防災時の注意喚起

が挙げられており、前回の記事で紹介したNextdoorと当局との連携に近いものになっていると読むことができます。

◆PIAZZA

 「PIAZZA」は、2015年5月に開始された「街のみんなで情報交換」を謳う地域SNSです。「実名の登録にご協力ください」と書かれており、原則的に実名で登録することを求めています。現在は、人口流入が激しい再開発都市(コンパクトシティ)を中心に、勝どき・豊洲・武蔵小杉・流山で展開しており、今後拡大予定とのことです。「おしえて!」「さしあげます!」「イベント告知」など、ご近所ならではの情報や、モノ・コトのシェアが気軽にできるようになっています。

川崎市中原区と「子育て情報発信実証事業における連携協定」を締結し、PIAZZAのコミュニティ形成ノウハウやネットワークを中原区に提供し、武蔵小杉地域における子育てコミュニティの醸成に寄与するとのことです。

AndroidとiOS向けにアプリが配信されており、Google Playで配信されているAndoroidアプリのダウンロード数は記事執筆時で「500~1000」となっています。

◆Soylink

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「Soylink」は、2014年10月に開始された「ひとりひとりが持っているモノ・地域・経験・時間を活かして、地域の人々がみんなでいきいきし合う日本初の地域限定コミュニティサービス」を謳う湘南密着SNSです。登録時に郵送もしくは窓口で本人確認をする必要があります。会員は、実名と住んでいる地区、顔写真などが公開されます。現在は神奈川県の藤沢市、茅ヶ崎市、鎌倉市、逗子市、葉山町、寒川町に住んでいる人のみが会員登録できます。コミュニティは、市町村をさらに細かく分けた「地区」もしくは「タウン」毎に作られています。

「リソースリクエスト」として、会員が持っているリソース(モノ・スキル・サポート)を必要としている会員にマッチングしたり、「ベルリンガー」として、自分が知りたい、知らせたい生活情報を会員同士で伝え合い、自治体などからのアラート情報を受け取ったりできます。そのほか、町のお店のイベントを入手したり、会員間で情報交換を行うこともできます。

AndroidとiOS向けにアプリが配信されており、Google Playで配信されているAndoroidアプリのダウンロード数は記事執筆時で「500~1000」となっています。

◆Make Local

「MakeLocal」は、「地域のみんなとつながる子育てSNS」を謳う、子育てに絞った地域SNSです。自治体や周辺のお店などと連携した地域ならではの情報をやり取りしたり、子育て家庭を地域のみんなで支えあうことができるそうです。現在は横浜市神奈川区にてテスト中とのことです。現在はまだ未実装ながらも、公式サイトによれば近所の人に子供を預けられる機能も搭載予定となっています。

 2010年ごろに流行した地域SNSと現在地域SNSの変化

このように、特に最近登場した地域SNSでは、より現実のコミュニティを細かく分け、実名登録を促す地域SNSが増えてきました。より実際の地理的コミュニティとの結びつきが強くなっているように感じられますが、これらの地域SNSと2010年ごろに流行した地域SNSではどのような違いがあるのでしょうか。

リクルートライフスタイルがマチマチの運営会社Properの代表である六人部氏へインタビューを行った記事によると、2016年にマチマチを始めた理由として、「スマホの普及」と「SNSの浸透」を挙げています。

スマホが普及したことで、書き込みたいときにすぐに情報をSNSに書き込めるようになりました。特に、出先で見つけたローカル情報をリアルタイムに書き込むのはPCよりもスマホのほうが向いているため地域SNSに与える影響は大きいでしょう。

そして、SNSが普及したことで、オンライン上で知っている人とも知らない人とも簡単につながることができるようになり、またオンライン上で実名を出すことへの抵抗が減ったことも現実世界を対象とした地域SNSにとっては大きな違いといえそうです。

こうしたSNSを取り巻く環境の変化が、より狭い範囲を対象として、実名で登録するという新興地域SNSの登場と流行に影響を与えたのではないかとみられます。

これらの新興地域SNSの普及が進むと、Nextdoorやマチマチの渋谷区の事例のように自治体との連携が行われることが予想されます。そこで、自治体がもっている情報を一般ユーザーがただうけとるだけでなく、一般ユーザーが現実的でリアルタイムな情報を投稿し、両者間で相互にやり取りを行うことで、自分が属するコミュニティに関する情報がさらに充実したものになることが予想されます。

参考サイト