法整備が進む民泊 ホームシェアリングの現状
国内ではシェアリングエコノミー推進に向けた体制などの検討が進んでいます。
様々な領域にまたがるシェアリングエコノミー全体としてのガイドラインは、業界団体やシェアリングエコノミー協会が協議しています。
一方、それぞれのビジネスの実際の運用については個別の法律が適用されることになる見通しです。特に、民泊/ホームシェアリングの分野は、法的規制が整いつつあります。
政府が進める観光立国政策の効果もあり、現在、名古屋市や札幌市の人口にも匹敵する月間200万人前後もの外国人旅行客が日本を訪れています。
そして特に大都市部では、ホテルの部屋不足が深刻化しています。
そこで外国人観光客の間で広がりつつあるホームシェアリングが、その解決策になると目されるようになってきています。
2014年に日本に進出した世界最大のホームシェアリングプラットフォームAirbnbを利用し、2015年は国内で138万3000人以上が宿泊しました。
しかし、現状では国内で自宅の空き部屋や所有しているアパートなどに、賃貸契約ではない形でお金をとって短期的に人を滞在させることは、厳密には違法です。
そこで政府はホームシェアリング/民泊に関する規制を緩和することで、短期間に宿泊施設を増やし、またICTを活用した産業を創出しようとしています。
民泊については現在、国家戦略特区での導入と新法の検討が行われています。
2015年に、東京都大田区と大阪府が民泊を解禁する特区になりました。
国際線の増加に力を入れる羽田空港を抱えている大田区は、2016年2月に、区が認定する事業者による民泊事業を開始しました。
また、現在国内で最も客室不足が深刻化している地域である大阪府は、大田区と同様に4月に事業を開始しています。
しかし、大田区と大阪府における認定件数は合わせて46室と、焼け石に水の状態です。
その原因として、第一に「連泊規定」があります。両特区では、民泊を「ホームステイ」としているため、認定の条件として1つの施設に6泊7日以上泊まることが義務付けられており、これが旅行者のニーズに合わず、認定件数が増えない大きな要因になっています。
この点に関しては、「2泊3日以上」に引き下げられる方向で改正が進んでいます。
第二に、同様に認定条件として一部屋の面積を25㎡としていることもあります。大都市に多いワンルームのアパートなどではこれ以下の面積の部屋も多くあります。
そのほか、用地の使用区分や設備、近隣の理解、後述する政令改正などで、特区民泊はまだ始まって間がないとはいえ、実際の旅行者の選択肢にはほとんどなり得ていないのが現状です。
一方、全国を対象としたいわゆる「民泊新法」は2015年6月に閣議決定された「規制改革実施計画」に始まります。
その後、11月から「「民泊サービス」のあり方に関する検討会」が厚生労働省・観光庁・国土交通省が中心となって開催され、現行の旅館業法における「簡易宿所」の区分の規制を緩和し、民泊を一部認める方向で検討されてきました。
2016年4月には旅館業法の一部が改正され、一人当たりの面積が3.3㎡以上あること、フロントはなくてもよい(ただし宿帳は必要)、都道府県の許可制とすることなどが決められました。
これにより、民泊は条件を満たすものであれば適法となりましたが、外国人にも人気の観光地浅草を抱える東京台東区や長野県軽井沢町は、民泊を制限・禁止する条例を制定し、地域のイメージや既存のホテル・旅館業・不動産を守るため、民泊の増加を食いとどめようとしています。
この検討会が2016年6月にまとめた最終報告書では、民泊新法の方向性は以下のようになりました。
・年間の営業日数を180日以下とすること
・家主居住型/家主不在型 の2つに体系化し、それぞれの規制を設けること
・民泊事業者および建物管理者は届け出制、ホストは登録制とすること
これらをもとに、2017年1月の通常国会に法案が提出される予定でしたが、政府は2016年9月の臨時国会に前倒しし、一刻も早く観光客増加に対応するつもりでした。
しかし、「営業日数180日以下」がネックとなり、旅館業界と不動産業界が折り合わず、新法の臨時国会提出は見送られることになりました。
民泊の伸長を警戒する旅館業界は各自治体が営業日数を決められるようにするよう求めましたが、台東区や軽井沢町のように、人気観光地で軒並み制限がかかるようになると不動産活用が難しくなり、結局民泊新法が骨抜きになると不動産業界は反対しています。
新法は通常国会への提出が目指されていますが、違法な民泊業者の参入が相次ぐ現状では、喫緊の課題といえます。