『シェアリングシティと政府の役割』③ サンフランシスコ、アムステルダム、ミラノ、そして日本

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『行政&情報システム』誌に掲載された地域SNS研究会事務局の庄司昌彦(国際大学GLOCOM准教授)によるコラム「シェアリングシティと政府の役割」を、3回にわたって掲載しています。
第3回は「サンフランシスコ、アムステルダム、ミラン、そして日本」についてです。

>>第1回『『シェアリングシティと政府の役割』① シェアとは何か』
第2回「『シェアリングシティと政府の役割』② シェアリングシティ・ソウル」

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シェアリングシティの世界的広がり

シェアリングシティはソウル市だけではない。米国ではリーマンショックのあった2008年以降、サンフランシスコ市周辺でシェアリングエコノミーに関するスタートアップ企業が相次いで生まれた。ライドシェアのUberやホームシェアのAirbnb、引っ越しや掃除などの仕事をシェアするTaskRabbit等が創業されたほか、シェアリングエコノミーに関する情報を集約するプラットフォーム「Shareable」もこのころ立ち上げられた。

これらの企業が賛否両論を受けつつも急成長していくのを受け、サンフランシスコ市では2012年にシェアリングエコノミー・ワーキンググループを設置した。これは前年に当選したエドウィン・リー市長とサンフランシスコ市議会が設けたもので、市の財政・教育・環境・消防などあらゆる行政部署と、市内のシェアリング企業が協力し、障害となる法的・行政的規制の改正を検討するためのものである。
その後、2013年には全米市長会議でシェアリングエコノミー推進が承認されるなど、米国ではシェアリング企業の急成長に後押しされる形で、行政もバックアップ体制を整えつつある。
Shareableの「Sharing City Network」には既に米国だけで30以上の都市がリストアップされており、グローバルな企業だけでなく、地元の特性を生かしたローカルな取り組みも増えている。

欧州では、オランダのアムステルダム市と、イタリアのミラノ市が目立っている。
2009年から持続可能なスマートシティを目指す取り組みを行ってきたアムステルダム市では、2015年2月に民間団体ShareNLとアムステルダム市経済委員会が、市民のシェアリングエコノミーに対する調査をもとに「アムステルダム・シェアリングシティ」を宣言した。
ソフト・ハード両面のインフラが整うコンパクトな街であるアムステルダム市は、個人同士でのシェアに向いており、投資も呼び込みやすいと経済委員会は述べている。
ShareNLとアムステルダム・シェアリングシティ・プロジェクトが運営しているスマートフォンアプリ「Peerby」では、ハンモックから猫のキャリーバッグまで、様々なものをシェアすることができる。
また、スマートシティ・プロジェクトの一環として、カーシェアやライドシェアなどももちろん行われており、Uberは欧州本社をアムステルダムに置いている。また市とAirbnbは協定を結び、市が宿泊税を徴収し、その中から寄付も行える制度を設けている。

2015年に万博を開催したイタリアのミラノ市は、万博開催時の交通手段・宿泊施設等の不足を見込み、この機会にシェアリングエコノミーを広めようと「Shareexpo」という取り組みを2014年から開始した。Shareexpoや同様のShareitalyでは、モノやスキルの共有だけではなく、それらの問題点についての講演会なども行われている。さらに、市民の声も取り入れたガイドライン「Guidelines for Milan Smart City」を市議会で承認し、シェアリングエコノミーに向けた取組みを推進している。
ミラノはまた、コワーキングスペースのための独自のマッチングシステムを運用しており、2015年の「Coworking Conference Europe」の開催地ともなった。ミラノ市では、市の周辺地域も含めた圏域レベルへのシェアリングエコノミーの拡大にも力を入れ始めている。
2016年11月には欧州の主要都市のネットワークである「EUROCITIES」の年次総会がミラノで開催され、「シェアリングシティ」をテーマに議論が行われる予定である。

政府の役割と「シェア」

以上、ソウル市をはじめとする諸外国のシェアリングシティの事例を通じて、広がるシェアリングエコノミーに対して行政がどのような取組みを行っているかを概観してきた。

情報通信技術の発展を受け、政府が広範なイノベーションの基盤や素材提供になるべきだという「プラットフォームとしての政府」という議論がある。この議論に基づけば、シェアリングエコノミー時代における「プラットフォームとしての政府」の役割は、さまざまな資源の活用や最適な分配を自ら行うのではなく、住民や企業が互いに融通しあうプラットフォームづくりを支援することであるといえよう。

ところで、日本国内において「シェアリングシティ」や同種の包括的・総合的なシェアリングエコノミー政策を掲げている政府機関や地方自治体はまだ存在していない。観光地や過疎地において社会課題解決の観点からUberを利用できないか検討している事例や、Airbnbをはじめとする民泊の活用を検討している事例、違法な活動に対する対策を行っている事例は存在しているが、本稿で紹介した諸都市に比べるといずれも「つまみ食い」的である。
個別の社会課題に対する対症療法として考えるだけではなく、資源活用と社会のあり方に関する社会ビジョンに基づく、総合的な取組みが求められる。

 参考文献等:

Amsterdam Sharing City – Why How What
OPPORTUNITIES AND CHALLENGES FOR EUROPEAN CITIES: ‘AMSTERDAM SHARING CITY’(ShareNL、2015年10月13日)
Milan, an Italian smart city for Expo2015(LobGov、2014年12月12日)
Sharexpo: Milan as a collaborative and shareable city(LobGov、2014年10月27日)