韓流シェアリング企業 「SoCar」と「Kozaza」
アメリカで始まったシェアリング・エコノミーは、すでに巨大なビジネスを生み出しています。その代表格は、一般の人々が自分の車でタクシーのように人を乗せるためのマッチングサービス「Uber」と、同じく一般の人々が自宅の空き部屋を旅行客に提供する「Airbnb」です。
●シェアリングをめぐる軋轢
UberやAirbnbは、世界的にはでは非常に便利な移動・宿泊手段として定着しつつあります。しかし、そのビジネスモデルは既存の法制度とのコンフリクトを生むことがあります。
例えばUberは、日本ではいわゆる無認可のタクシー行為である「白タク」に該当するため、正規のタクシー配車ビジネスしか解禁されていません。他の国々ではタクシー運転手たちを中心にデモが頻発し、フランスではデモが暴動にまで発展しています。
また、日本政府の「観光立国」政策以来、急増する外国人観光客のホテル不足解消のために「民泊」の解禁が議論されています。しかし羽田空港周辺を戦略特区として一部解禁してみてはいるものの、「6泊7日以上滞在すること」を条件とするなど規制が厳しく、まだほとんど利用されていないのが現状です。タクシーやホテルといった既存の業界の利益や利用者の安全をどこまで守るのか、利用者が安く便利に使える選択肢をどこまで広げるのかは、シェアリング・エコノミーが拡大するなか、世界中で共通する大きな課題です。
政策としてシェアリング・エコノミーを推進する「シェアリングシティ・ソウル」では、官民が連携してこれらのサービスと法規制をめぐる問題に対応し、独自のサービスが展開しています。それが「Socar」と「Kozaza」です。
●官民連携型カーシェアリング
「Socar」は前回の記事でご紹介したソウル市のカーシェアリング事業「ナヌムカー」で認証を受けている5社の中で最大の企業です。
2012年、100台の自動車で始まったSocarは、2015年末には5000台、会員数150万人、利用地点数1200か所にまで急成長しています。第二位の「グリーンカー」と合わせて登録者は255万人ともいわれ、毎日3000人ほどの人が利用しているそうです。
スマートフォンのアプリや音声認識を使えば、予約やキーの開錠、駐車場での車の位置検索、利用代金の清算など、サービスに関することがすべてでき、20~30代の若い世代に好評を博しています。
ナヌムカー全体での利用地点は2018年までに2400か所に拡大される予定で、そうなると市内のどこからでも2分以内に利用できるようになるそうです。今年には韓国の企業グループSKから65億円の投資を受けることも決まりました。
ただし、韓国国内では依然としてUberは解禁されていません。 中央日報が報じたところでは、「国土交通部のクォン・ビョンユン成長戦略政策官は、「ウーバー自体は一種の売買業で違法でない。だが自家用車での有償運送を斡旋するのは違法」と話した。自家用車を利用してお金を受け取ってお客を乗せる行為は認めないという話だ。」という認識です。
その代わりにソウル市と連携した国内のカーシェアリング企業がサービスを提供し、市は公共施設の空きスペースを貸し出すことで収入を得たり、障害者料金を設定させることで社会保障の一部としているのです。
●ローカルを生かし、ローカルを守る
ホームシェアリング企業「Kozaza」はAirbnbの韓国国内版といえる事業を行っています。ホームシェアリングとは一般市民が自宅の空き部屋を旅行客等に貸し出すもので、日本では「民泊」という名で最近話題になっています。
Kozazaが2012年に創業したとき、すでに韓国では前年に外国人観光客を一般人が代金を取って宿泊させることは解禁されており、Airbnbが圧倒的なシェアを持っていました。現在までに生き残った韓国系ホームシェアリング企業はKozazaだけです。それはきめ細かいサービスと信頼性、独自のビジネスモデルを持っていたからでした。
Kozazaは主に「コリアステイ」と「ハノクステイ」という2つの事業を行っています。コリアステイはいわゆる民泊のことで、例えば兵役に行っている息子の部屋を貸し出して若い人に来てもらって親たちは寂しさを埋めるということもあるそうです。
コリアステイは韓国全土に広がりつつあります。韓国の地方では、「ペンション」と呼ばれる民宿がよくありますが、インターネットで写真を見て予約し、行ってみると実物はかけ離れていてがっかりする、ということがよくあるのだそうです。しかしKozazaに登録されているシェアハウスに泊まったことがある人は、Kozazaを通してなら信頼して予約できるのです。
Kozazaのユニークなところは、もう一つの「ハノクステイ」です。ハノク(「韓屋」)とは、韓国の伝統的な家屋を指します。韓国全土には900件ほどあり、そのうち約500がKozazaに登録され、他のシェアハウスと同じように利用できます。利用者は普通の家やマンションでは体験できない光や風、癒しといった特別な経験を求めているといいます。
一方でハノクの所有者は、貸し出して収入を得ることで、維持・修繕のための負担を軽減することができます。さらに、Kozazaはインターネットの活用や外国語が困難な人、高齢者向けにはホスト代行業やクリーニングサービスを用意したり、空き部屋ができたら利用者にレコメンドしたりと、ゲスト・ホスト双方にきめ細かなサポートをしています。
地方でのコリアステイやハノクステイは、他に収入を得る手段がない家主たちにとっては魅力的な収入源です。毎週の週末だけでも、月に数万円相当の利益になり、高齢者の生活の質の確保や伝統文化の維持といった社会的価値を生み出しています。このような社会的課題解決という方針に対して、ソウル市も障害となる条例の改正などで協力しています。
こうしてKozazaを成長させたチョCEOは、「グローバルなシェアリング・エコノミーは存在しえない。シェアリングは人中心、ローカル中心なもの。グローバル企業に対抗するために、国内のシェアを守り、地方の観光業や伝統文化を守りたい」と述べています。
中国からの観光客が増加しているのは日本と同じで、1200万人の外国人観光客の約半分を占めるといいます。こうした変化に対応するため、Kozazaは中国の代表的なホームシェアリング企業「チュジア(途家)」との連携を準備しています。チョCEOはアジアのホームシェアリング企業が協力していく方法も検討しているそうです。
韓国では、今年のソウルを皮切りに、順次国内での韓国人の民泊が解禁されることになっています。韓国のホームシェアは今後、グローバル企業との競争にさらされることになりそうです。
●参考URL
・「9年後に411兆ウォン市場の共有経済…既存業者との対立解決が宿題」(中央日報、2016年02月18日)
・「韓国のカーシェアリング・サービス「Socar」が会員数50万人を突破、2015年中には100万人に到達か」(THE BRIDGE、2015年1月23日)
・「ソウル市のカーシェアリング「ナヌムカー」、利用地点を2倍に増やす」(東亜日報、2016年2月15日)
・「Car sharing takes off from Jeju to Seoul」(Korea Joongan Daily、2015年5月6日)
・「アジュンマの井戸端会議 第361話 韓国のカーシェアリングは?」(KBS World Radio、2015年8月5日)
・「French police arrest two top Uber executives after Paris cab riots」(INDEPENDENT、2015年6月30日)
・「Democrats think they’ve figured out how to turn the Uber wars to their advantage」(The Washington Post、2015年8月12日)
・「Kozaza taps sharing economy to promote hanok」(The Korea Times、2014年6月4日)