「自由な仕事」か「不安定な仕事」か シェアリング・エコノミーの問題点
「所有」ではなく「共有」する経済。この流れは革新的であると注目される一方、様々な問題や軋轢を起こしてもいます。シェアリング・エコノミーにまつわる議論にどのようなものがあるのでしょうか。
論点は大きく分けて3つです。既存の業界が守ってきた法規制が守られていないこと、シェアリング・エコノミーに新たに参入する労働者を取り巻く環境が整備されていないこと、そしてこれらを克服するための打開策です。
●便利さか安全性の保証か
既存のタクシーやホテル事業者は、厳しい認可基準や法規制を守りながら、彼らの仕事を形作っています。そこに何の規制も守らない一般人がより低コストで参入すると、ルールを守ってきた既存の事業者のビジネスは成り立たなくなっていきます。
UberやAirbnbに対する反対運動や規制が各国で求められる理由のひとつが、この問題です。
利用者はより安く便利に移動や宿泊ができるに越したことはありません。また、その街の普通の人と接するという少し特別な体験もできるかもしれません。しかし、ドライバーやホストは専門的な法規制を知らなかったり、専門的なトレーニングを受けていなかったりするため、トラブルを起こすリスクを抱えており、またトラブルへの対処にも慣れていないこともあり得ます。
Uberはドライバーだけではなく利用者にも評価が与えられる相互評価システムが悪質な者を排除する規制として働くとしていますが、アメリカやインド、イギリスではUberドライバーによる強姦・誘拐事件なども起こっています。また、アメリカではカーシェアで借りた他人の車でUberドライバーをする人もいて、誰が誰の車でサービスを提供しているのかがますます不透明になっている例もあります。
Airbnbも2015年10月からゲスト・ホスト双方に対する補償プランを提供しリスクに備えていますが、例えば民泊では消火設備が不十分であったり宿帳がなく防犯上の問題があったりします。
2016年4月、大阪では無許可で数百組のゲストに対し反復継続的に営利性を持って民泊を行っていた一般人が逮捕されました。今月にはまだルールが整っていない大規模マンションでの民泊を差し止める判決も出されました。
新しい形態ゆえに、これらのサービスは参入した各国で対応する法的枠組みがなく、問題が起きてから検討されているのが現状です。日本でも、今のところルール整備は十分ではありません。
●稼ぎやすさか不安定か
民泊やライドシェア、その他の単発あるいは日雇いで請け負う仕事のことを、特にギグ・エコノミーともいいます。このようにいまだ不安定なビジネスではあっても世界中で多くの人を惹きつけ、急拡大しています。
それはまずもって、労働形態として魅力的だからといえるでしょう。日本や他の先進国に限らず、経済格差が広がる中で、なんとか収入を増やすために、使われていない車や部屋で、すきま時間にお金を稼げるというのは非常に合理的に思われます。
子供を学校に送った帰りにUberドライバーになる主婦、定年退職後の夫婦の家のかつての子供部屋、フルタイムで働けない代わりに単発の仕事を請け負う一人親など、ギグ・エコノミーは安定的な就労が難しい人のためのセーフティ・ネットとして機能することもあります。
しかし、これらの仕事にはもちろん、社会保険も労災保険もありません。退職金もなく、働けなければただちに無収入になってしまいます。労働組合のようなものもないので、待遇改善に関する交渉もできません。
また、仕事を提供するプラットフォームは、一見、経済格差を解消するための自由な労働を提供するコミュニティが運営されているだけのように見えますが、実際には安くて流動的な仕事の供給を巨大企業が独占支配しているともいえます。こうした状況下で、独立した請負業者とみなされる人々は、実は何も持たない立場の弱い労働者であるともいえます。
●プラットフォームは誰のものか
こうしたシェアリング/ギグ・エコノミーの現状の打開策として、「プラットフォームコーポラティビズム(platform cooperativism)」という考え方が提唱されるようになってきました。
プラットフォームコーポラティビズムとは、瀧口範子によると、『「普通の人々が他の普通の人々にサービスを提供する会社」は、それに寄与するすべての関係者によって共同経営されるべきもの、という考え方』です。
こうしたプラットフォームを通したサービスは、ドライバーやホストなどのサービス提供者がいないと成り立ちません。必要不可欠な彼らにも経営に対する発言権を分配すべきではないのか、という主張で、ヨハイ・ベンクラーやサスキア・サッセンなど著名な大学教授らが提唱しています。
技術の進歩と新しいビジネス形態による利益は、巨大企業だけのものになるのか、自由で柔軟な仕事としてすべての人のものになるのか。議論の深化と変化に即した対応が求められています。
●参考URL
・「The Sharing Economy: Capitalism’s Last Stand?」(Our World、2014年5月21日)
・「シェアリングエコノミーに異議を唱える「Platform Cooperativism」」(IT Pro、2015年11月12日)
・「Platform Cooperativism vs. the Sharing Economy」(Medium、2014年12月6日)
・「The Case Against Sharing On access, scarcity, and trust」(The NIB、2014年5月28日)