地域SNS研究会合宿@掛川 報告レポート

2月5・6日、静岡県掛川市で地域SNS研究会の合宿が開催され、各地の地域SNS運営者や開発者、研究者9名が参加しました。
研究会
1日目
 研究会は、掛川市のNPO法人「スローライフ掛川」の方々もまじえて、市の指定有形文化財「竹の丸」で行われました。はじめに、研究会の事務局を務める庄司(国際大学GLOCOM講師/主任研究員)があいさつし、今後の地域SNSに関して対面でじっくり話す機会としての合宿の意義を説明しました。
その後、各地の地域SNSの運営者からそれぞれのSNSの現状が報告されました。最初に、開催地でもある掛川市の地域SNS「e‐じゃん掛川」を市と共同で運営する「スローライフ掛川」の石山さんから、NPOの成り立ちや事業内容に関するお話がありました。「スローライフ掛川」は、2002年11月に開催された「スローライフ月間in掛川」のスタッフを中心に2004年に発足したNPO法人ですが、その背景には昭和54年の「生涯学習都市宣言」以来、市民に根付いているスローライフの哲学があります。
つづいて「e-じゃん掛川編集局」の河住雅子さんから「e‐じゃん掛川」の現状が報告され、SNSが「地域の小さな情報発信基地」になるために、利用者や市民記者を含めて活発な地域活動を行っていることが紹介されました。一方で、来年度いっぱいで市の援助からの自立が求められていることもあり、SNS運営における資金面の問題も提起され、参加者のあいだで活発に議論が交わされました。
千葉県松戸市の「ラブマツ」を運営する榊原直哉氏(株式会社フォークソノミー)は、「ラブマツ」が本名と顔写真の掲載を義務付けている唯一の地域SNSであることを紹介したうえで、地域の子どもの安全やリテラシー教育に関してメリットが存在することを指摘しました。
西千葉の「あみっぴぃ」の運営者である虎岩雅明氏(NPO法人TRYWARP)は、パソコンやインターネットに不慣れな人たちをSNSに巻き込む方法として「まずクリックしてみること」や「日記は読むもの」というふうに、可能な範囲で参加してもらうように心がけてきたと話しました。さらに虎岩氏は、「あみっぴぃ」に登録していない人であっても、周囲の人たちから「あみっぴぃ」の情報や「あみっぴぃ」による情報を入手していれば、SNSのネットワークの一部として捉えられるという視点も披露しました。
愛知県豊川地域のポータルサイト「みてみン!」を運営する松原圭氏(株式会社まちびと社)は、学校や幼稚園のウェブサイトをSNSに組み込んだり、緊急連絡メールというサービスを保護者に対して提供することで多くの利用者を獲得していると説明しました。
 舟橋正浩氏(フナハシドットコム)は、佐渡島の「佐渡島地域災害情報共有システム(佐渡ぽた)」と旭川市の「あしか.jp」という2つの事例を紹介しました。どちらの地域も、「トキ」や「旭川動物園」といった、フックとなる観光資源は存在するものの、リピーターや宿泊客の少なさに悩んでいました。そこでSNSを観光目的で活用しようという試みが行われ、佐渡島では「ニンテンドーDS」を活用した地域情報の提供、旭川市では「地域マーケットを刺激し、情報化投資を引き出すインターネットインフラを自分たちの手で作ろう!」という目標を掲げ、紙媒体、ポータルサイト、Twitter、USTREAM、コミュニティFMなどを駆使し、さらに社員を「キャラ」化して総動員するなどの工夫をしていることが紹介されました。
 1日目最後の報告は「下北沢ブロイラーSNS」の黒田正信氏(有限会社第四企画)が務めました。黒田氏は「FacebookとOpenPNEの連携」と題した報告のなかで、日本でも流行しはじめているFacebookのなかに、地域SNSの多くが利用しているOpenPNEの機能を埋め込むことで、地域SNSのアクセスを維持しようという実験的試みを紹介しました。
※黒田さんの発表資料はこちらでご覧になれます。
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2日目
 2日目はSNSの研究者や開発者らによる報告が行われました。
鳥海不二夫氏(名古屋大学)は、2010 年6月にサービスを終了したSo-netSNSのデータを利用した「SNSの統計分析」の結果を報告しました。鳥海氏によれば、SNSの成長や停滞といった状態変化には一定のパターンが存在し、今回のデータでは50あるクラスタがそれぞれ一定の確率で別のクラスタに遷移していたとのことです。そのうえで、鳥海氏は「あるクラスタに位置づけられたSNSが具体的にどのような事例で、どのような経過をたどったのか」という質的な分析を今後行っていく必要も合わせて指摘しました。
 庄司望氏は、スターバックスの‘I’m in’やダブの‘Campaign for real beauty’などの、海外におけるPRの事例を紹介するなかで、今後の社会活動の参加には、「広報・PRとSNSの連携」「テクノロジーの深化・利活用(による参加障壁の低下)」「社会性のあるアジェンダ設定」が重要であるとの認識を示しました。
 OpenPNEの開発者である手嶋屋の手嶋守氏は、SNSを成功させるために必要なものとして「コミュニティ運営能力」「技術力」「資金力」の3つを挙げたうえで、そのうちの「技術力」が圧倒的に不足している現状をふまえ、運営者にもっと技術に対する関心を持ってもらいたいと語りました。また、依然として多くの人がネットに対してネガティブなイメージを持っているという問題提起を行い、ネットとリアルが対立するものではないことを強調しました。
 研究会の最後には、「『2010年の地域SNS』と今後の展望」というテーマで庄司昌彦から報告がなされました。庄司は06年~07年に行われた「2010年の地域SNS」プロジェクトを振り返ったうえで、「2015年の地域SNS」は、より大量の情報収集やモノ作り・ビジネス、国際的な展開も行っていきたいと抱負を述べました。さらに庄司氏は、‘Code for America’というアメリカのオープンガバメントの事例を紹介し、‘Code for Japan’を起こそうと提起して本研究会を締めくくりました。
掛川市を知る
 研究会の前には、早く到着した研究会メンバーで、「eじゃん掛川」の活動とも関わりの深い「掛川そば研究会」の新年会にお邪魔し、できたてのそばをたくさん(ほんとうにたくさん)ごちそうになりました。そして市の生涯学習課の高川さんから掛川の生涯学習の歴史も説明していただき、おいしく楽しく掛川を知る機会となりました。
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 研究会の終了した2日目の午後には、掛川市をもっと知るために、「スローライフ掛川」の方々に市内を案内していただきました。研究会の会場となった「竹の丸」のほか、二宮尊徳の思想を伝える「大日本報徳社」、木造建築にこだわった「掛川市立図書館」、山内一豊の拠点であった「掛川城」、日本最大のキウイ農園である「キウイフルーツカントリーJAPAN」、市民がフロアを見渡せるオープンな構造になっている「掛川市役所」など、魅力的な場所がたくさんあり、掛川の人のあいだに根付いている哲学に少し触れられたような気がします。
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 とはいえ、「スローライフ掛川」の井村さん曰く「掛川の魅力はまだ半分も伝えきれていない」とのことなので、ぜひまた掛川へ足を運んでみたいと思います!
 掛川のみなさん、本当にありがとうございました。
(地域SNS研究会事務局 河野智彦)