第14回 横浜市「ハマッち!」 ―イベント創造とネット中継 (月刊『広報』連載コラム 「人をつなぐ」地域SNS ~各地の地域SNS活用術)
今回は18区に約360万人が住む国内最大の市、横浜で「横浜が好きな人」約2200人(2009年1月現在)が参加している地域SNS「ハマッち!」を紹介する。ハマッち!は2008年2月に開催された第2回地域SNS全国フォーラムをホストし大成功を収めた、全国的な知名度のある地域SNSである。
開港150周年と「イベント創造プラットホーム」
今年2009年は、1859年(安政6年)に江戸幕府が横浜を開港してから150周年という節目にあたる。小さな漁村であった横浜が、開港を機に、国内外の様々な人や物が集まる場所になった。つまり開港とは現在の大都市の原点であり、街のアイデンティティである。
横浜では毎年、開港記念日の6月2日に「横浜開港祭」を開催しているが、150周年の今年は、「開国博Y150」と題し、1年を通じて市内各地でさまざまなイベントを行う。
ハマッち!はこのイベントに連動した「Y150市民参加プラットホーム推進委員会」の活動に位置づけられている。この委員会は、単にイベントに足を運ぶだけではなく、この機会に「自分で何か企画したい」、「少しでも関わりたい」という市民にさまざまな情報と機会を提供し、さらには「主体的に地域でアクションを起こす市民」を増やしていこうということを目指している。
推進委員会の先駆けとなった有志の人々は、数年前から「人々が主体的に地域で起こすさまざまなアクション」のことを「イベント」と呼び、イベントを生み出し支援するための基盤を「イベント創造プラットホーム」と呼んで、その機能や活用方法などを検討してきた。ハマッち!は「横浜のイベントをエコにする」「ハマっ子イベント大賞」などとともに「イベント創造プラットホーム」の取り組みのひとつとして2007年10月にスタート(一般公開)したものだ。そのためハマッち!では、地域で自発的に活動する市民活動団体やサークルなどに使ってもらうことに力を入れており、他の地域SNSよりもコミュニティ機能の利用が活発である。
この連載で紹介してきた各地の事例が示しているように、SNSと「イベント」は相性がいい。筆者らの調査では、国内の7割以上の地域SNSで、ユーザーが何らかのイベントを自発的に行っている。また海外に目を移すと、2008年の米国大統領選挙では、バラク・オバマ候補の支援者たちがMyspace、FacebookなどのSNSを積極的に活用し、そこからたくさんの草の根の会合や主体的な働きかけを生み出して当選を勝ち取った。つまりSNSには、人々の交流から主体的なアクション(=イベント)を生み出す力があるといえよう。
SNSから生まれた「みんなの市場放送局」
もともと横浜は市民メディアや市民活動・サークル活動に非常に厚みがある場所だが、ハマッち!では、それらの枠を超えた新たなつながりから、さまざまな新しいイベントが生まれている。最近の大きな話題はハマッち!から生まれた手作りのネットTV、「みんなの市場放送局 YCMB (Yokohama Central Market Broadcasting)」だ。
横浜市中央卸売市場水産部が地元住民に市場を一般開放する毎月第1・第3土曜日に、インターネットを通じて市場内の移動中継やトーク番組などを配信している。精肉店「ジャストミート」の店先に設けたスタジオでハマッち!ユーザーがキャスターやレポーターを務め、他のユーザーや買い物客、市場関係者をゲストに迎えて送るトーク番組はとてもにぎやかに盛り上がっている。
この市場放送局が生まれたきっかけは、ハマッち!の「横浜中央市場を横浜新名所に」というコミュニティだ。コミュニティの参加者が「横浜市場まつり」を盛り上げるためのアイディアを出し合う中から、インターネットライブ中継のアイディアが生まれ、市場関係者の協力も得てすぐに放送局が立ち上がった。しかも2008年10月19日の初回放送では、国内外からのべ 5,000件以上のアクセス数を記録したという。
図:みんなの市場放送局の放送風景。(写真提供:ヨコハマ経済新聞)
この放送局は、インターネット接続したPCにカメラをつなぐだけで、無料でインターネットライブ中継ができるStickam(http://www.stickam.jp)というサービスを使っている。視聴者は放送を見るだけではなく、画面の下に表示されたチャットを通じて番組に参加することもでき、双方向のコミュニケーションが可能だ。
Stickamは、会津Sicon(福島県)の勉強会「花ホテル講演会」やNikiNiki(鹿児島県)の「ネットラジオゆくさ」でも使われている。また第3回地域SNS全国フォーラムin佐賀でも、参加できなかった遠隔地の人々のためにStickamを使ったネット中継が行われた。地域SNSとネット中継を連携させる取り組みは広まっている。
オンとオフ、同期と非同期
なぜ地域SNSを楽しむ人々の間でネット中継が広まっているのだろうか。そのヒントを、次の表から考えたい。この表では地域SNSと地域SNSに連動する活動の場を「オンライン/オフライン」、ユーザー同士のコミュニケーションの時間差を「同期/非同期」として分類した。
表:地域SNSと連動する活動の分類
ここで、(1)SNSのコミュニケーションは、各自が自分の好きなタイミングで参加できて便利だが、非同期なのでコミュニケーションには時間がかかるし一体感なども持ちにくい。これに対し(2)紙メディアのコミュニケーションは、便利で多くの人が参加できるが(1)と同様に非同期の問題を抱えている。一方(3)のネット中継は、人々が時間を共有し、一体感を感じることができるが、コミュニケーションの濃密さではオフラインにかなわない。そして(4)イベント・オフ会は、コミュニケーションの濃密さや一体感がある一方で、人々が場所と時間を合わせるのは難しいという問題がある。
おそらくこの4種類は、互いに補い合う関係にあるのだろう。そしてネット中継が各地の地域SNSで広まっている理由は、SNS本体でもオフ会でも、フリーペーパーでもできないコミュニケーションをネット中継が担っているからではないかと考えられる。
なおハマッち!の場合は、すでに「SNS」と「イベント」と「ネット中継」を組み合わせている。この表が正しいとすれば、次は(2)の紙メディアを活用に力を入れるとさらにコミュニケーションを充実させられるのではないだろうか。
※このコンテンツは、(財)日本広報協会が発行している月刊『広報』に2008年1月号より地域SNS研究会の庄司昌彦が連載している記事を、日本広報協会のご好意により許可をいただき地域SNS研究会のサイトでも公開するものです。