第10回 京都府宇治市「お茶っ人」 ―市町村が運営する地域SNSのモデル(月刊『広報』連載コラム 「人をつなぐ」地域SNS ~各地の地域SNS活用術)
市町村を対象とする地域SNS
この連載では、二つの類型を設けて地域SNSを整理してきた。ひとつは町内会や小中学校区などの「狭い地域」を対象として、人々の間に「強いつながり」を作ろうという志向を持つもので、西千葉の「あみっぴぃ」(第3回)が代表的な事例である。もうひとつは、都道府県などの「広い地域」を対象としてクロスメディアなど「地域情報の流通」の仕組みづくりに重点を置くもので、代表的な事例は佐賀の「ひびの」(第4回)や「ドコイコパーク」(第6回)「NikiNiki」(第7回)である。また兵庫の「ひょこむ」(第5回)は県という広い地域を対象としながら「強いつながり」を志向しているという、両方の性格を持っている。
この筆者の分類は非常に単純なもので、対象地域でいえば、実際には両者の中間である「市区町村」規模の地域を対象とするSNSが非常に多く存在する。千代田区の「ちよっピー」(第8回)など総務省や地方自治情報センター(LASDEC)の実証実験事業が市区町村を単位として行われているし、前回紹介した厚木市の「マイタウンクラブ」(第9回)も市を対象としている。そこで今回は、市区町村規模の地域SNSの中でも特に活発なコミュニケーションや多彩な活動で知られている京都府宇治市の「お茶っ人」を紹介する。
「市民団体の活動支援」と地域SNSの相性
宇治市は京都府の南部に位置し、約19万人の人口を抱える住宅都市である。また世界遺産の平等院などの文化財が多く、源氏物語など歴史の舞台に何度も登場している。室町時代から続く「宇治茶」の生産でも知られている。
地域SNS「お茶っ人」はLASDECの実証実験として、2006年11月3日から運用が始まった。2008年9月現在、約1500人が参加している。宇治市の行政(IT推進課)と市民団体(宇治大好きネット)が協働で運営してきたが、次第に、市民(宇治大好きネット)主体の運営に移行しているところだ。
この「宇治大好きネット」という団体は、地域SNSとともに「eタウンうじ」というウェブサイトを運営している。「eタウンうじ」も「お茶っ人」と同様に、市が2002年度に総務省の事業として構築したもので、133のサークルや市民団体の活動状況やイベント情報、子育て情報などが掲載され、地図やカテゴリーから検索することができるシステムである。「eタウンうじ」の運営による地域の団体支援という取り組みは、2004年度の「地域づくり総務大臣表彰」を受賞した。
地域SNSの運営も、さまざまなサークルや市民団体の活動を促進・支援するという宇治大好きネットの活動の一環として行われている。「お茶っ人」と「eタウンうじ」がシステム的に連携しているわけではないが、運営母体の活動や人脈としては関係が深く、相乗効果を発揮しているといえる。
たとえば「eタウンうじ」の3周年と「お茶っ人」の1周年記念イベントとして2007年11月に開催された「わいわいあつまろフェスタ」には、約600人もの人々が参加した。地域SNS関連のイベントとしては他に類を見ない大規模なイベントであった。このイベントではそれぞれの団体の活動の展示や発表があり、フェナーレでは参加者が肩を組み輪になって歌い、盛り上がった。そのほかにも、「お茶っ人」のユーザーが自発的に始めた「お茶っ人庵」というイベントも5月に開催された。ここでも生演奏や写真・絵画の展示、パソコン教室、源氏物語の「語り」など、ユーザーの趣味や特技が披露され、大いに盛り上がった。このように「お茶っ人」は、さまざまなサークルや市民団体の活動と結びついており、イベントはその発表会、あるいは「文化祭」のような雰囲気を持っている。
地域SNSのコミュニケーションからさまざまな「オフライン」の活動が生まれ、活動が活性化する傾向は他の地域でもみられる。それだけでなく、この「お茶っ人」の事例のように、既存のサークルや団体の活動と連携し、その活動支援としてSNSや他のシステムを活用することも、非常に相性がいいようだ。これは前回(第9回)紹介した厚木市の「マイタウンクラブ」が市の施設予約システムやサークル・団体のホームページとSNSを連携させていたことや、横浜市の地域SNS「ハマっち!」が、サークルや団体の活動を「イベント」という切り口でとらえ「イベント支援」を謳っていることにも通じている。
「生活圏」を充実させるメディア
また「お茶っ人」は、市内にキャンパスを持つ京都文教大学との連携を深めている。京都文教大学は、宇治の観光・文化の中心地である平等院近くの宇治橋通り商店街に空き店舗を利用した「サテライトキャンパス」を持っている。大学と地域との連携を深めるために、この施設は地域の人々も利用することができ、宇治大好きネットが打ち合わせを行ったり、学生の研究発表を地域の人に向けて行ったりしている。この関係が基になり、学生が地域の祭りに参加したり、学生と地域の人々が協力して「グリーンマップ」を作成したりするということがこれまでにあった。
さらにネット以外のメディアの活用にも積極的で、これまでに2度、タブロイド版の「お茶っ人新聞」を発行している。お茶っ人のユーザーが内容を解説しながら「人づて」で配布するという「SNSの新聞」らしいユニークな試みも行っている。さらに、コミュニティFMの「FMうじ」の番組内のコーナーで「お茶っ人」の情報やイベントの紹介がされることも多い。インターネットとFMの連携による災害情報の収集・配信の訓練も行っている。
「お茶っ人」が活用しているミニコミ紙やコミュニティFMは、近隣地域よりは広く、地方紙や地方放送局が対象とする県域よりは狭い「生活圏」を対象としている身近なメディアだ。歩いて行ける場所ばかりではないが、自転車やバス、車に乗れば気軽に行ける範囲、といってもいいだろう。その意味では市内の大学との連携も、同様の「距離感」だといえる。趣味のサークルや市民活動も、そのくらいの範囲で行うものが少なくないだろう。このような生活圏の情報流通や活動を充実させる基盤としても、地域SNSが使える可能性があることを「お茶っ人」は示している。