第7回 鹿児島県「NikiNiki」 ―クロスメディアとSNSカフェ(月刊『広報』連載コラム 「人をつなぐ」地域SNS ~各地の地域SNS活用術)

各地の地域SNSは、ウェブ上のサービスとしても、まちづくりの活動としても、さまざまな試行錯誤を続けている。この連載を始めてから約半年の間にも、新たな取り組みが次々に生まれてきている。「メディアとしての地域SNS」という観点では、兵庫県佐用町「さよっち」など地域SNSと動画公開機能との組み合わせが広がっていることは特筆すべきであろう。また「グループウェア(地域活動の基盤)としての地域SNS」という観点では、文部科学省による「地域SNSを活用した家庭教育支援に係る調査研究事業」が全国18ヶ所の地域SNSで始まった、というニュースもあった。
クロスメディアに取り組む地方テレビ局
今回紹介する鹿児島テレビの地域SNS「NikiNiki(ニキニキ:http://nikiniki.tv/)」は、メディアとしてもグループウェアとしても、特にユニークな取り組みを次々と打ち出している事例だ。地方の新聞社が運営する地域SNSには、佐賀新聞の「ひびの」や河北新報の「ふらっと」、紀伊民報の「みかん」などがある。だが、地方のテレビ局が地域SNSを運営しているのは珍しいといえる。新しい技術やメディアの登場によって従来型のマスメディアの将来が不透明になっているというのは新聞もテレビも同様で、地方テレビ局にとっては、地上デジタル化に伴う大規模な設備投資をどうまかなうかということが、最大の問題になっている。
そのような中、鹿児島テレビは「放送外収入」の拡大を目指して、インターネットへの取り組みを積極的に展開している。具体的には、企画推進局コンテンツ推進部の池田耕毅氏を中心に、招待制地域SNS、オープン制(誰でも登録できる)地域SNS、地域情報サイト、物販サイトの4つを運営している。これらのサイトとテレビの連動から、新しい地域情報の流れと、新しい価値を作り出そうとしているのだ。このようにコンテンツやデータを複数のメディアに掲載してより多くの人に届け、相乗効果を生み出そうという手法は、「クロスメディア」と呼ばれている。
SNSから情報サイトに毎日約10件記事を掲載
鹿児島テレビの取り組みで核となっている招待制の地域SNS「NikiNiki-R」は、2006年4月に運用を開始したもので、ユーザー約2000人が参加している。また2007年9月にスタートした「NikiNiki-G」は、招待なしで誰でも気楽に登録でき、約1000人が参加している。二つの地域SNSを合計すると、NikiNikiには約3000名が参加していることになる。
情報サイト「WHAT’S NEW かごしま(http://www.ktstv.net/)」は、鹿児島テレビが提供する生活情報や地域SNSのユーザーが提供する口コミ情報、番組関係のブログへのリンクなどを紹介している。地域SNSからは1日10件程度、事務局が選んだ日記や写真をユーザーの許可を得て転載している。SNSと情報サイトやウェブマガジンを連携させる事例は他の地域でもいくつか見られるが、1日に10件程度の転載という記事の量は、全国で最も多いといえるだろう。今後は、特に人気の高いグルメや温泉に関する情報について、自社製作の放送コンテンツ(取材時に許可を取っているため二次利用がしやすい)と、SNSの口コミ情報を連携させていく予定だと池田氏は語っている。
そして物販サイト「NIKI MONO(http://ktstv-sh.sv1.allin1.jp/hitgoods/)」では、鹿児島やNikiNikiに関連する商品を販売していて、SNSの利用に応じて加算されるポイントを使って買い物をすることができる。特に興味深いのはNikiNikiリストバンドという赤いシリコン製のリストバンドだ。これはNikiNikiの仲間であるということの証であり、このリストバンドをして協力店へ行くと特別なサービスをしてもらえたりする。
地域SNSから生まれたカフェ
鹿児島市役所の近くに、昭和の古い木造建築の飲食店が軒を連ねる「名山堀」という場所がある。その一角に、地域SNSから生まれた「SNSカフェ めいさん」がある。NikiNikiユーザーの「めい」さんが経営する、居酒屋風の店だ。めいさんが昨年この店を開くときには、NikiNikiユーザーの有志が設計やペンキ塗りなどを手伝った。そして今は毎晩、NikiNikiユーザーの誰かが必ずやって来て、ハンドルネームで呼び合いながら食事や会話を楽しんでいる。カウンター席10人分ほどしかない小さな店であるため、NikiNikiのユーザーだけで店がいっぱいになることもある。
この「SNSカフェ めいさん」は、NikiNikiユーザーのさまざまな地域活動の拠点になっている。筆者が訪問した際には、NikiNikiの有志が数日後に迫ったキャンドルナイト(照明を消しキャンドルの灯りで夜を過ごそうという環境イベント)について相談しながら飲んでいたり、海の日に桜島の海岸を清掃しようという話がその場で決まったりしていた。この店で、ネットの人間関係が深まったり、新しいつながりが生まれたり、地域活動が生まれたりしている。
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また「めいさん」の2階では、毎週木曜日の21時から1時間、ネットラジオ「ゆくさ(http://yukusa.blog57.fc2.com/)」の 生放送が行われている。「ゆくさ」は、「ネットラジオ」と称しているが音声だけではなく、Stickamというライブカメラサービスを使って、飲食店や観光スポットの情報、ゲストとパーソナリティの対話などを動画で流しながら、視聴者とのチャットを楽しんでいる。NikiNikiユーザーがゲストとして登場することや、NikiNiki発のイベントを紹介することもある。「NikiNiki」と「SNSカフェ めいさん」と「ゆくさ」は、ネット上のコミュニケーションとリアルな地域をうまくブレンドするいい関係を築いているといえるだろう。
池田氏によると、NikiNikiを中心とする鹿児島テレビのネット事業は、基本的な構築が終わり、現在はブラッシュアップの時期にある。「放送外収入」を生み出すビジネスとしてNikiNikiの事業モデルが確立するかどうかは、これからが勝負どころだ。しかし、クロスメディアという新しい情報の流れと、SNSカフェを拠点とする地域活動や人のつながりは、すでに歯車がかみ合い始めているように見える。
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※このコンテンツは、(財)日本広報協会が発行している月刊『広報』に2008年1月号より地域SNS研究会の庄司昌彦が連載している記事を、日本広報協会のご好意により許可をいただき地域SNS研究会のサイトでも公開するものです。