第6回 香川県「ドコイコパーク」 ―持続可能なビジネスモデルの模索(月刊『広報』連載コラム 「人をつなぐ」地域SNS ~各地の地域SNS活用術)

運営コストとビジネスモデル
多くの地域SNSに共通する最大の課題は、事業モデル・ビジネスモデルの確立である。地域SNSで人間関係を築き、一時的な盛り上がりを作ることができても、その関係を持続的なものにしていかなければ、本当の意味での「ソーシャルキャピタル」にすることはできない。そのため、地域SNSの運営に関する機器や人的なコストをどうまかなっていくかということは、非常に重要な課題である。
地域SNSの設置や運営にかかるコストはそれほど多くはない。総務省の「地域SNS動向調査(平成19年2月)」によると、初期投資は「10万円未満」が最も多く(約45%)、また月間運営費用も「5万円未満」が最も多い(約60%)。オープンソースのプログラムを使い、多少の技術力がある人材が確保できれば、かなりの低コストで地域SNSを運営することはできる。そのため、第2回地域SNS全国フォーラムが行った調査(平成20年2月、複数回答)では、地域SNSの運営費用は「他の事業からの補填(55%)」や、「持ち出し(21%)」でまかなっているという回答が目立っていた。
しかし、「最低コスト」での運営から一歩踏み出し、地域に対して積極的に働きかけたり、サービスや機能を充実させたりしようとすれば、費用がかかるのも事実である。また、いつまでも「他事行からの補填」や「持ち出し」でいることは望ましいことでもない。したがって、地域SNSを組み込んだより大きな事業モデルやビジネスモデルを考えることが重要なのである。
ビジネスとしての地域SNS
そこで今回は、地域SNSと地域密着型のビジネスとの関係を追求している香川県の地域SNS「ドコイコパーク」を紹介する。この地域SNSは、2006年1月にSNSのサービス提供を開始した、地域SNSの先駆け的存在で、現在は3000人弱のユーザーが参加している。
運営している(株)ドコイコは、代表取締役の河野大輔氏など20代の若者が経営するベンチャー企業である。河野氏らは、地元香川で地域の人々向けに地域情報誌『Tokyo Walker』(角川書店)のインターネット版のようなサイトを運営したいと考え、2005年7月からポータルサイトの運営を開始した。当初はポータルサイトが事業の柱であったが、すぐにmixiなどのSNSが人気を集めていることに注目し、ネットコミュニティからも地域の情報を得ようと考え2006年1月からSNSを開設した。
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ドコイコの特徴は、SNSを開設した当初から、ビジネスと地域SNSを関連づけていることである。ドコイコのビジネスモデルは、地域の商店等に対してウェブページ等による情報発信を支援し、またSNSやフリーペーパー等で住民とのコミュニケーションを支援して、その対価を得ることである。具体的には、SNS内にその店舗のコミュニティを設置したり、ユーザーアンケートをしたり、SEO対策等のコンサルティング、ネットショップ販売代行、ポスター製作・印刷代行などである。そのため、ドコイコにとって地域の店舗や企業との関係は非常に重要で、日常的に活発な営業活動を行っている。その成果もあり顧客は高松市内の飲食店や美容関係を中心に220社を超えている。
 ドコイコの顧客である「カフェMATA-HARI」(高松市常磐町)の店長、宮川健一氏は「ドコイコは、香川の人や店ばかりで安心感がある。全国的なSNSでは余計な情報が多いと感じる」と述べている。宮川氏は2007年5月にドコイコの営業担当者が訪問したのをきっかけとしてSNSに一般ユーザーとして登録をし、6月頃に店舗として有料登録をした。現在は、ドコイコパークを通じて店のニュースを発信しており、数人の顧客とSNS上でやりとりをしている。さらに宮川氏は、ドコイコに店内のPOP広告やダイレクトメールの作成を発注するなど、多面的にドコイコと取引をしている。また多くの顧客を持つドコイコに「ビジネスパートナーなどを紹介してくれると嬉しい」とB2Bの橋渡しも期待している。人や企業を支援し、結びつける役割を果たす、というドコイコのビジネスモデルは、コミュニティビジネスの一部としての地域SNSのあり方を示しているといえるだろう。
ベンチャー精神と大学
ドコイコはビジネスとして地域SNSに取り組んでいるということもあり、じつにさまざまな試みを行っている。たとえば、夏には渇水が必ず話題になる地域性を生かしてユーザーと共に節水キャンペーンを展開し、地域のニュース番組に取り上げられた。ビアガーデンパーティやケーキバイキングなどを行う公式イベント「ドコイコサミット」も、10回以上開催している。その他にも、ネット上の地図を使って讃岐うどんの店を紹介したり、フリーペーパーを発行したり、地元で話題の場所を取材してポータルサイトで紹介したりするなど、サービス開発やコンテンツ制作には非常に積極的である。そのような取り組みが評価され、2006年には四国経済連合会などが主催する「キャンパスベンチャーグランプリ四国」で最優秀賞を受賞した。
ドコイコのベンチャー精神の背景には、彼らが若くビジネスを志向しているということの他に、「大学との関わり」もあると考えられる。「ドコイコ賢人論」というコンテンツでは、香川大学経済学部の研究室と協力し、地元で活躍する著名人や企業人のインタビュー記事を作成し公開している。大学には技術や知識があり、またサークルやNPO活動、多様な学生や教員という人材がある。これらは地域SNSが志向する地域活性化と非常に相性がいい。また大学がある地域は人材の流動性も高く、地域の側も新しい人や取り組みを許容する寛容さもあるといえる。大学がなければ地域SNSが活性化しないということはないが、大学がある地域で、大学関係者と地域の人々をうまくつなぐことができれば、地域活性化の取り組みが加速する可能性は高く、そこにSNSが貢献する余地があるといえよう。
 ビジネスの立ち上げから2年以上が過ぎ、いろいろなところから声が掛かるようになるなど、多くの人と関わる中で信頼を得られるようになり、「やっとスタートラインに立った」感覚であると河野氏は述べている。さらなる積極的な展開とビジネスとしての確立を期待したい。
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※このコンテンツは、(財)日本広報協会が発行している月刊『広報』に2008年1月号より地域SNS研究会の庄司昌彦が連載している記事を、日本広報協会のご好意により許可をいただき地域SNS研究会のサイトでも公開するものです。